つい先日2025年3月3日のひな祭りの日、ミュシャ財団による新しいミュシャ美術館がオープンしました!!
※まず最初にお伝えしたい事がございます。ネット上で「ミュシャ美術館が移転」「ミュシャ美術館の場所が変更」など書いてあるものを見つけるのですが、移転とか場所の変更とかはしていないです…。その辺の話をちょいとしたいと思います。

ミュシャ美術館のあるサヴァリン宮殿。これは宮殿ですね。
新しく完成したミュシャ美術館は現在”サヴァリン宮殿”と呼ばれる建物の中の一部にあります。
このサヴァリン宮殿の歴史も古く、元は16世紀頃に既にあった建物が17世紀の三十年戦争後に改築され、現在の姿となったのは18世紀の中頃です。
その後に所有者の貴族達も次々と変わっていき、現在は”Crestyl”というチェコの不動産開発投資会社が所有しています。
その”Crestyl”との交渉後にミュシャ財団がサヴァリン宮殿に新たなミュシャ美術館をオープンし、現在(2025年)はミュシャの故郷であるモラヴィアのお城(Zámek Moravský Krumlov)にある歴史絵画の超大作であり最高傑作である”スラヴ叙事詩”もサヴァリン宮殿で展示をする予定でいます。

サヴァリン宮殿ミュシャ美術館、スラヴ叙事詩の下描きである油絵があるのは凄い!
交渉がうまくいってプラハにまたスラヴ叙事詩が戻ってきてくれるといいですねぇ。
ミュシャの故郷であるモラヴィアにあの最高傑作を展示する事には物凄く意味はあるのですが、なんせ遠い…。多くの観光客や世界中にいるミュシャファンが気軽に行けるところではございません。
なんですが、これに関して問題が起きておりまして、プラハ市とミュシャ財団のバトルも続いておりました。
これは所有権を巡る争いなんですが、つい最近プラハ市が訴訟を取り下げ合意しひとまずは落ち着きました。
これ↑の原因はミュシャがスラヴ叙事詩の制作を始める時に、アメリカの大富豪でミュシャのスポンサーとなっていたチャールズ・クレーンとの取り決めで
「完成した作品はプラハ市に寄贈する。ただしプラハ市よ、それには条件がある。プラハ市が自費で、このミュシャのスラヴ叙事詩という大作を多くの一般市民が見られるよう、特別な展示場所を恒久的に設けなくてはならない。」
というものでした。
ひとまずは1928年にはプラハ市が所有者となったんですが…、なんせ今現代の21世紀になっても展示場所が定まらず
「プラハ市は全くミュシャとクレーンとの約束を未だに守っていない!プラハ市は所有に対する責任を負っていない!」
となっているんですね。まぁミュシャ財団からしたらそりゃ激オコです。
と、いう事で、現在揉めているのが ”スラヴ叙事詩を恒久的に展示する場所としてはどこが最良なのか” という事なんです。
これについては当然プラハ市としては「プラハに決まっておろう!」というわけです。
なので現在プラハ市とミュシャ財団とCrestylの間で話し合いが続いているんです。
もうそろそろスラヴ叙事詩完成から百年も経ってしまうのですが…サヴァリン宮殿で決まるんですかねぇ…。

サヴァリン宮殿のミュシャ美術館。宮殿ですね。手前に見えるのはミュシャの自画像下絵、クレヨン画。

サヴァリン宮殿ミュシャ美術館。ビデオプロジェクションというのがありまして、描かれていく過程が見られます。これは面白かった。
そしてまだまだミュシャに関する揉め事はございます。
それが
”ミュシャ美術館 VSミュシャ美術館 ”
です。
今、プラハにはミュシャ美術館がふたつあります。ふたつあるんですよ…。移転とか場所の変更ではございません!
おそらくプラハのミュシャ美術館を知っている全員の方達や、これからいらっしゃる方達は
「あれ?新しくできたの?え?どーゆーこと?どーなってんの?」
と思うはず。
私も実は以前にその様なご質問を受けました。
では、この揉め事の中身を解説致しましょう。
以前からある1998年オープンのPanská通りにあるミュシャ美術館については現在もオープンし続けています。
ですが、これまでのPanská通りのミュシャ美術館はミュシャ財団の管理のもとにありまして、そのミュシャ財団が現在はもうPanská通りのミュシャ美術館を離れてサヴァリン宮殿の方で新たなミュシャ美術館をオープンしてしまっているというわけなんです。なんかややこしいすね。

Panská通りのミュシャ美術館の The Moon and the Stars。リトグラフ。これスキ。キレイ。
そして今現在、Panská通りのミュシャ美術館とミュシャ財団のサヴァリン宮殿ミュシャ美術館の間で揉めているメインは
「名前どうすんの!?」
という事です。
そこで1998年オープンのPanská通りのミュシャ美術館は
「いやもう我々はこれから”元祖ミュシャ美術館”と名乗らざるを得ない」
みたいな冗談なのかよく分からない事も言ってます。
本当にそう名前が変わったらおもろい。
ひとまず現在の双方の名称は…
1998年オープンのPanská通りのミュシャ美術館は
The Mucha Museum Prague
「The」が付いてますからね、これは本物すね。
2025年ミュシャ財団が新オープンしたサヴァリン宮殿のミュシャ美術館は
Mucha Museum (The only official Mucha Museum in the world)
「世界で唯一の公式ミュシャ美術館」。いやさすが財団。やる気満々ですよ?
おもろいわぁ…。
Panská通りのミュシャ美術館との契約が切れた後にミュシャ財団は多くの作品をPanská通りのミュシャ美術館から外してしまいまして、それらは現在寝かせている状態です。
それが去年(2024年5月以降)の話だったんですが、その後(2024年9月頃から)、Panská通りのミュシャ美術館はイワン・レンドル・コレクションを大量に展示し始めまして…。これがですね、作品の展示数だけでいうならば、つい先日オープンしたミュシャ財団のサヴァリン宮殿のミュシャ美術館よりも多くなってしまいました。

Panská通りのミュシャ美術館で私の一押し。スメタナやドヴォルザークが描かれたチェコ人音楽家大集合。油絵。
まぁミュシャ財団によるサヴァリン宮殿のミュシャ美術館はついこないだオープンしたばかりなのでまだまだですが、そのうち徐々に寝かせてある虎の子を財団はじわじわと出し始めるでしょう。
いつの日かスラヴ叙事詩がサヴァリン宮殿に来てしまったらもうロイヤル・ストレート・フラッシュですね。
で、ひとまずこれについてミュシャ財団ではこの様に述べています。
「Panská通りのミュシャ美術館にはそのような運営を行う権利も知的財産を使用する権利もなくなった。もはやミュシャ財団との提携もなく承認もされておらず、その運営は無許可であり契約上の義務に違反している。」
いやぁ…ほんと双方の間でいったい何があったのかは分かりませんが…激しいっすね!!
そのPanská通りのミュシャ美術館との契約を更新するのをやめた理由について、もうひとつミュシャ財団の方からは次のようなコメントがあります。
「これまでのPanská通りのミュシャ美術館は手狭でしっかりとした美術館としての展示が困難だったので、訪問された方達には混雑もなくさらにお楽しみ頂けるよう、そして将来のスラヴ叙事詩の展示も見据え、広いスペースを持つサヴァリン宮殿で新しくミュシャ美術館をオープンしました。」
これはハシゴを外された形のPanská通りのミュシャ美術館としては激オコでしょう。
でもミュシャやクレーンとの約束を履行するためにもミュシャ財団やプラハ市としてはどうしてもミュシャ作品をまとめられるスペースは必要ですし…、いや、難しい話です。
でも正直ファンとしては2つもミュシャ美術館があって、お互い競争して様々なミュシャ作品を展示し続けてくれた方がぶっちゃけ嬉しいですけどね。ほんと。これからもがんばってください。
※イワン・レンドルについては、私くらいの年代の方達ならばご存知かと思いますが、チェコが生んだかつてのスーパースター、名テニスプレイヤーです。
そのイワン・レンドルはとんでもないミュシャ・コレクターとしても世界的に知られています。
そのイワン・レンドルのコレクションを現在Panská通りのミュシャ美術館では多く展示しております。

Panská通りのミュシャ美術館。これはでかいよ!ネスレの広告。リトグラフ。
という事で、全国ミュシャ・ファンの方達には是非プラハに来て頂きまして、そんな大人の裏事情を頭に思い浮かべながらふたつの美術館を見比べてほくそ笑んで頂きたいと思います!
ミュシャは、今のこの騒動を見てどう思うだろうなぁ…ほんと。
「どっち行ったらいいですか?」というご質問はおそらくこれから多くあるかもしれませんが、それはお答えの非常に難しいご質問です。
同じ作品は当然ながらありませんし (リトグラフについては同じ絵柄は現在のところいくつかはあります。ですがそれもよく見て頂くと違いがあるのが分かります。) 、展示作品についても双方入れ替えはございます。
なので、是非とも両方行ってください!!どちらも応援して頂いて、どちらも長く運営していける様になる事がファンにとっての最大の利益です。
ナニワトモアレひとまずはスラヴ叙事詩ですね。プラハ市には一刻も早くミュシャとクレーンの約束を履行して頂きたいと思います。もう百年ですよ…。
※私のYouTube動画でスラヴ叙事詩の徹底解説をしております。前編・後編あわせて100分です。頑張れそうな方は是非御覧ください。
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